ジャワ・ヒンドゥーの至宝!
プランバナン寺院遺跡をめぐる
古都ジョグジャカルタ近郊の緑濃い平原に、時を超えて堂々たる姿を見せるプランバナン寺院。9世紀に建造されたヒンドゥー教の三大神を祭る巨大な石造寺院は、8世紀のボロブドゥール寺院と並んで、古代ジャワ島の豊かな文化を現代に伝える一大モニュメントです。
プランバナン寺院の歴史
プランバナン寺院は数々の王朝が興亡を繰り返した古代ジャワ島で、史上最大の王国を築いた古マタラム王国の王によって建造されたヒンドゥー寺院です。この王国の前身は8世紀前半に中部ジャワで興ったサンジャヤ家によるヒンドゥー教の国で、間もなくボロブドゥール寺院を築いたシャイレーンドラ朝の出現により一度衰退しますが、9世紀中頃にシャイレーンドラ朝の王女とサンジャヤ家のラカイ・ピカタン王が結婚。サンジャヤ家の主権回復と結婚を記念して850年頃に建設が始まったのが、プランバナン寺院だったといわれます。
ピカタン王は数々のヒンドゥー寺院を建立しましたが、同時に仏教寺院の保護と建設にも力を注ぎ、王妃の信仰に敬意を示したといいます。現在に残された寺院遺跡群もその多くが仏教寺院であり、2つの宗教が共存していたことを物語っています。
やがて920年代に起こったムラピ山の噴火や疫病の蔓延により、古マタラム王国の中心は東へと移動。打ち捨てられたプランバナン寺院は16世紀の大地震などにより完全に倒壊したといわれます。19世紀にボロブドゥールと同じくラッフルズの調査隊によりその存在が注目されましたが、本格的な修復作業が始まったのは1930年代になってから。1991年に世界文化遺産に登録され、遺跡公園として整備された現在も調査と修復作業が続いています。
寺院の伽藍配置
プランバナン寺院はヒンドゥー教の三大神に捧げられたもので、東を正面にして中央にシヴァ堂、南にブラフマー堂、北にヴィシュヌ堂が並び立つ配置となっています。3つの祠堂の正面にはそれぞれの神の乗り物(ヴァーハナ)である聖獣の祠堂3基が並び立ち、さらに200を超える小祠堂が周囲を囲んでいます。
シヴァ堂
創造と破壊の神シヴァを祭るシヴァ堂は、これら祠堂群の中心に立つ最大のもので、ヒンドゥー教の聖地カイラス山を模したとされる祠堂の高さは47m。上部はシヴァ神の象徴である無数のリンガ(男性器形の像)で装飾され、燃え盛る炎のような形をした姿が印象的です。堂内には4方面に部屋があり、東正面にシヴァ・マハーデーヴァ(偉大なる神)、南室にシヴァ・マハーグル(偉大なる導師)、西室にシヴァの息子ガネーシャ、北室にシヴァの妻で破壊と死の女神ドゥルガーの像がそれぞれ安置されています。
堂をめぐる回廊には叙事詩「ラーマーヤナ」の場面を描いた42面の美しいレリーフがあり、こちらも必見です。
また、対となる東正面のヴァーハナ堂にはシヴァ神の乗り物である聖牛ナンディン像が安置されています。
ロロ・ジョングラン伝説
かつて王国にロロ・ジョングラン(すらりとした娘)という王女がいました。バンドゥン・ボンドウォソという大男が国王を殺害して新たな支配者になると、美しい姫は結婚を迫られることに。姫はそれを断るため、一晩で千の神像を造ることができたらと条件を出したところ、バンドゥンは妖精を操って次々に神像を作り上げました。焦った姫が侍女たちに米を挽かせると、朝が来たと勘違いした鳥たちが鳴きはじめ、太陽が苦手な妖精たちは最後の一体を残して去ってしまいました。この顛末を知ったバンドゥンは怒り狂い、ロロ・ジョングランに千体目の像になる呪いをかけてしまいました。
いつしかシヴァ堂北室のドゥルガー像こそが伝説のロロ・ジョングラン像だとされ、プランバナン寺院(現地語でチャンディ・プランバナン)は、今も土地の人々に「チャンディ・ロロ・ジョングラン」の別名で呼ばれています。
ブラフマー堂
シヴァ堂の南側にある高さ33mの祠堂。宇宙の根本原理ブラフマンを擬人化した創造神で、祭事や学問を司る神でもあるブラフマーを祭っています。堂内は東側に開口部がある1部屋のみで、四面四臂のブラフマー像が安置されています。回廊にはシヴァ堂から始まる「ラーマーヤナ」のレリーフの続きが描かれており、猿軍団と魔王ラーヴァナ軍の戦闘シーンなどが見られます。堂の正面には聖なる白鳥ハンザの堂がありますが、内部に神像等はありません。
ヴィシュヌ堂
宇宙の維持を司るヴィシュヌ神を祭る祠堂で、建築的な構造はブラフマー堂とほぼ同じです。内部にはヴィシュヌ神像が安置され、4本の手に棍棒、法螺貝、円盤、蓮華を持っています。回廊のレリーフはヴィシュヌ神第8の化身であるクリシュナの英雄譚が描かれており、ヤムナー川の龍退治の場面などが見られます。正面には聖鳥ガルーダの祠堂がありますが、内部に像は残っていません。
ラーマーヤナ劇場
古代インドの叙事詩『ラーマーヤナ』は、ヴィシュヌ神がコーサラ国の王子ラーマとして地上に降り、悪事の限りを尽くす魔王ラーヴァナを退治する物語。インド文化を取り入れてきた東南アジア一帯で古くから親しまれており、プランバナン寺院やカンボジアのアンコール遺跡など、多くのヒンドゥー寺院または仏教寺院で、この物語をモチーフにした彫刻や絵画を見ることができます。
プランバナン遺跡公園内には野外ステージ「ラーマーヤナ劇場」があり、ジャワの伝統音楽に合わせて繰り広げられるラーマーヤナ舞踊を観ることができます。台詞の無い誰もが楽しめる内容で、あらすじが分かる日本語の案内書も用意されています。上演日はハイシーズンの5~10月は週に3回程度、その他の期間は基本的に満月の日のみ。開演は19時頃で、ライトアップされたプランバナン寺院を背景に、総勢250人が出演する迫力の舞台を楽しむことができます。
プラオサン寺院
プランバナン寺院と同時期の9世紀中頃に建造された仏教寺院で、サンジャヤ朝ピカタン王が仏教国シャイレーンドラ朝から嫁いだ妃のために建設したといわれています。南北2つの寺院から成りますが、南側は損壊が激しく、見学は北プラオサン寺院がメインとなります。境内中央の2つの仏堂を58の小堂と116のストゥーパが囲み、小堂の一部には寄進者の記録も残されています。プランバナン寺院から車で5分ほどの場所にあり、田園風景を眺めながらのんびり徒歩でアクセスすることもできます。
サリ寺院
8世紀後半、シャイレーンドラ朝ダルマトゥンガ王の治世下に建てられた仏教寺院。3つの部屋に仕切られた堂内は、かつては梁に板を渡して2階部分を設け、僧院として利用されていたといわれます。そのためか、建物には窓が多く設けられており、窓の左右には計38体の美しい菩薩像のレリーフも見られます。
カラサン寺院
古代ジャワの数少ない記録の1つ「カラサン碑文」が出土したことで知られる寺院です。碑文によると、この寺はシャイレーンドラ朝ダルマトゥンガ王がサンジャヤ朝パナンカラン王に、ターラー菩薩を祭る仏教寺院を建設するよう求め、778年に建設されたといわれます。
サンビサリ寺院
1966年に開墾中の農夫が発見し、1976年に発掘された9世紀後半のヒンドゥー寺院。のちに東ジャワへ移ったサンジャヤ朝(古マタラム王国)が、中部ジャワに最後に築いた寺院とされています。東正面の主祠堂内部にはリンガが祭られ、外壁の壁龕にはガネーシャ、ドゥルガー、アガスティヤ(シヴァ・マハーグル)の神像が見られます。寺院は10世紀のムラピ山の噴火で埋まったといわれ、現在の地表から約6mも低い場所にあります。
ボコの丘
ムラピ火山と広大なプランバナン平原を見渡す標高200mの丘。頂上部分には9世紀にサンジャヤ朝ワラン王によって築かれたとされる宮殿跡が残されており、2重の石門や火葬場、沐浴所などの遺跡を見ることができます。遺跡の入口には展望カフェもあり、夕日観賞スポットとしても人気があります。