バガン建築の至宝!
アーナンダ寺院徹底解剖
カンボジアのアンコール、インドネシアのボロブドゥールと並んで「世界三大仏教遺跡」に数えられるバガン。最盛期には5000以上、現在も2000を超える堂塔伽藍が立ち並ぶバガン遺跡のなかで、最も美しい寺院として讃えられているのがアーナンダ寺院です。
アーナンダ寺院の歴史
アーナンダ寺院は、バガン朝の黄金期にあたる1090年頃、第3代チャンスィッター王によって建立された、バガン随一の大寺院。当時バガンに滞在したインドの高僧から伝え聞いた、ヒマラヤのガンダマダナ山にあるナンダムーラ石窟寺院を模して設計されたといわれています。「アーナンダ」はブッダの直弟子の名であり、「完全なる幸せ」、「ブッダの教えは永遠である」といった意味も込められているそうです。
1287年、南下してきたフビライ・ハーンの軍勢により王都バガンは破壊され、やがて王朝は滅亡。5000以上あったパゴダや寺院はそのほとんどが朽ち果てましたが、アーナンダ寺院は土地の人々に大切に保護され、およそ1000年の歳月を経た今日でも、創建当時の美しさを湛えた希少な建造物として残されています。
洗練された建築プラン
アーナンダ寺院は一辺が63mの正方形をした大伽藍で、東西南北それぞれに拝殿を配した、ラテン十字型の構造が特徴です。方形から円形へピラミッド型に絞られた上層部にはシカラと呼ばれる黄金の高塔がそびえ、ティと呼ばれる傘型の装飾をのせた頂点までの高さは約50m。均整の取れたシンメトリックな姿が美しく、ミャンマーの寺院建築の最高傑作と讃えられています。
20世紀に入ってから、東西南北にある入口のうち3方向にアーケードが増築され、本来の美しさはやや損なわれてしまいました。アーナンダ寺院の建築美をじっくり鑑賞するなら、アーケードがない東正面から見るのがおすすめです。
黄金に輝く過去四仏
本堂には高さ約9.5mの仏像が、東西南北の各方面に1体ずつ安置されています。これらは、地球が誕生してからこれまでに成仏した28人のブッダのうち、最近の4人の仏を表したもので、過去四仏ともよばれます。一般的に知られる釈迦族の王子ゴータマ・シッダールタは最も新しい28番目のブッダとなります。
4体のうち東と西の2体は火災により一度失われていますが、北と南は創建時からのオリジナルといわれ、バガン美術の至宝。左右に広がる袈裟や、両腕を前に伸ばした印相など、インドの影響を受けながら独自に発展したバガンならではの様式を見ることができます。
また、オリジナルの仏像は足元から見上げると怖い顔つきに、遠くから見ると微笑んだ表情に見えます。これは、前列に並ぶ王族や重臣には厳しく、後方で参拝する庶民には優しくという、仏教の教えを表しているといわれています。
仏教を学ぶ寺院
本堂を囲む2重の回廊の内壁には1000を超える仏龕が設けられ、誕生から涅槃に入るまでの釈迦の一生を表現したさまざまな像が納められています。多くの寺院がそうであるように、アーナンダ寺院は当時の人々に上座部仏教を理解させる教科書のような役割も担っていました。
さらに、寺院の外壁には基壇から上層のテラスにかけて、釉薬をかけて焼いた陶板パネル約1400点がはめ込まれています。ここで主に描かれているのは547話で構成されたジャータカ(本生譚)。これは輪廻転生を繰り返したブッダがそれぞれの生で善行を重ねた末に、ようやく釈迦族の王子として誕生したという物語を描いています。