神々の島、バリ島でムルカット体験
「神々の宿る島」と呼ばれるバリ島でほとんどの人が信仰している、バリ・ヒンドゥー教。その寺院参拝の一つとして、神聖な水を浴びて心身を浄化するムルカット(沐浴)が、老若男女に親しまれています。神秘的なエネルギーに満ち溢れる聖なる場所で、手を合わせ、無心に水に打たれれば、身も心もさっぱり。日頃の悩みが小さく思えて、身体も軽く感じるはずです。
バリ島の人々に親しまれるムルカット
「ムルカット」とは、自分自身を浄化する儀式。寺院や沐浴場で頭から聖なる水を浴び、心身浄化を目的としています。
ムルカットの語源は古代ジャワ語の「スルカット」に由来し、「善・幸福」を意味する「ス」と「掃除・浄化」を意味する「ルカット」という言葉に由来します。ヒンドゥー教徒の人生におけるマヌサ・ヤドニャ(通過儀礼)として、出生時や結婚の前に善や幸福を祈願してムルカットが行われてきました。病気治癒や物事の成功祈願でも行われます。
このような宗教的な側面を持ちながらも、バリ島の人々にとってのムルカットは、日常的な悩みの解決やちょっとした身体の不調、気分転換など、生活の一部として広く親しまれています。地元の人々が、家族や友人とムルカットをしに来ている光景は、まるで川遊びを楽しんでいるような明るい雰囲気です。旅行者も気軽に体験することができます。
また、ムルカットは、聖なる日に行うことが重要だとされています。そのため、月のエネルギーをもらえる満月や新月の日には多くの人が寺院を訪れます。
ムルカットの基本的なルールと注意点
ムルカットには、独自の参拝手順があるので、地元のガイドさんと訪れるのがおすすめです。現地のホテルやツアー会社が、日本語が話せるガイドを紹介してくれます。
まず、寺院の敷地内に入る際にはサロン(腰巻)とスレンダン(腰帯)を着用します。これらは寺院入口で貸し出していたり、周辺の売店で販売していますが、ツアー参加の場合、事前に用意してくれることがほとんどです。
ムルカットをする際は、男性は上半身は裸で、サロンのみ着用。女性はTシャツとサロン姿になるので、いずれも下に水着を着ていくことをおすすめします。終了後の着替えやタオルも持参しましょう。寺院によっては、簡易的な着替え場所もあります。また、生理中の女性や、出血を伴うケガをしている人は境内に入ることができないので注意しましょう。
ティルタ・ウンプル寺院
ティルタ・ウンプル寺院は10~14世紀に栄えたワルデマワ王朝の遺跡のひとつで、水の聖地として崇められています。「ティルタ」は「水」、「エンプル」は「聖なる」という意味で、寺院に湧く泉に由来します。また、寺院内にはシヴァ神、ヴィシュヌ神、ブラフマー神、バトゥール山、インドラ神を祀る神殿があります。
聖なる泉から引いた水が流れ込む石造りの沐浴場は、腰の高さほどの水深です。参拝方法は、寺院へお供え物をした後、一番左側の沐浴場に入り、左から順番に沐浴を開始していきます。13あるパンチョラン(水の噴き出し口)の前で手を合わせて、流れ込む神聖な水を頭から浴びていきます。左から数えて11番目と12番目は神事や死者の葬儀に使う専用の水であるため、浴びてはいけません。
ティルタ・ウンプル寺院の聖水伝説は、マヤデナワ王とインドラ神の戦いに由来します。インドラ神の兵士たちが、マヤデナワ王が作った毒池の水を飲んで死んでしまったことから、インドラ神は杖で大地を叩き、不老不死の水「アメルタ」を湧きあがらせ、兵士たちを生き返らせたことが聖水のはじまりとされています。以降、伝説の魔よけの泉といわれ、万病に効くと言われています。
また、寺院があるタンパリシン一帯はパクリサン川流域にあり、この一帯はバリ島で最古のスバックシステム(水利組合)の景観が残るエリアとして世界遺産にも登録されています。
スバトゥの滝
深い渓谷の奥にひっそりと佇むスバトゥの滝は、静かで神秘的な雰囲気が漂う聖なる滝で、ダラム・ピンギット・スバトゥ寺院の敷地内にあります。寺院の入口から10分程度かけて長い階段を降りると、2本の大きな滝が見えてきます。これがスバトゥの滝です。古くから地元の人々に大切にされてきた場所で、身体の悪い部分を癒し、バリ島に多数ある沐浴場の中でも浄化効果がとくに高いと言われています。
お祈りの際には、中国の古銭をバナナの葉で巻いた「クワンゲン」を手に持ち、滝の中へ入ります。岩にもたれるように前向き、後ろ向きになって手を合わせ、2本の滝に打たれます。かなり強い水圧と水の冷たさに驚きますが、しだいに心が落ち着き、心身ともに浄化されていくはずです。