フィリピン最初の世界遺産
バロック様式教会群を訪ねる
16世紀の大航海時代から300年以上、スペインの統治下にあったフィリピン。街なかにはバロック様式のカトリック教会を中心に、スペイン統治時代の面影を残す建築や風景が数多く残ります。なかでも首都マニラがあるルソン島、ビサヤ諸島最西端のパナイ島に立つ4つのバロック建築の教会は、1993年「フィリピンのバロック様式教会群」としてフィリピン初の世界遺産に登録されています。
フィリピンの地理的条件を活かした建築様式
フィリピンでは16世紀にスペイン統治が始まった結果、キリスト教が広まっていきました。スペインは宣教師を派遣し、フィリピン国内でカトリックを布教するため教会を次々と建築。現在はASEAN諸国で唯一のキリスト教国で、国民全体の約93%がキリスト教徒、そのうち約83%がカトリック派です。
フィリピンに建設された教会はヨーロッパのバロック様式の特徴である、豪華絢爛さ、立体性、光と影を描き分けるドラマチックな演出とは少し異なり、地震や台風など災害が多いフィリピン独自の地理的条件を考慮した低い天井、石灰岩やサンゴなどを使用した頑丈な造りが特徴。この建築様式はEarthquake Baroque(地震バロック)と呼ばれます。また、戦争や海賊の襲来に備えて、監視塔としての役割を持ちました。装飾もヤシの木など、フィリピンならではの南国らしいレリーフなどがあしらわれていることから、ヨーロッパ文化と融合しつつも独自の建築スタイルを確立したことが世界文化遺産認定への評価につながったとされています。
サン・アグスチン教会
1599~1606年に建造。マニラの旧城郭都市、イントラムロスにあります。石造りの教会としてはフィリピン最古といわれていて、祭壇の左にはスペインの初代フィリピン総督レガスピが眠る礼拝堂があります。高い天井にはパリから取り寄せたシャンデリアが輝き、立体感のある豪華絢爛な内装が魅力です。第二次世界大戦ではアメリカ軍による砲撃を受けてイントラムロスの街全体が大きな被害を受けますが、サン・アグスチン教会は奇跡的に大きな被害を免れたことで知られています。
パオアイ教会
正式名称は「サン・アグスチン教会」。マニラの「サン・アグスチン教会」と同じ名前ですが、パオアイの街の中心部にあることから一般的に「パオアイ教会」と呼ばれています。約20年の建設期間を経て、1710年に完成。教会の建築様式は、バロック様式に加えて、様々な国の建築様式の影響を受けているといわれています。
例えば、角状になった屋根の部分はボロブドゥール寺院のストゥーパを彷彿とさせるジャワ様式、壁面の飾りは中国など東洋の影響、教会の側面に備わるゴシック様式ならではの巨大なバットレス(控え壁)は、地震が多いフィリピンの地理的条件を考慮した頑丈な構造になっています。
サンタ・マリア教会
ルソン島北西部、サンタ・マリアの丘上に立つ教会。教会へは80段以上の階段が続き、サンタ・マリアの街を見下す見晴らしの良いスポットです。1769年に建設され、1810年に教会の横に鐘楼が建てられました。聖母マリアが天国に召される「聖母被昇天」を意味する「アスンシオン」というスペイン語にちなんで、別名「ヌエストラ・セニョーラ・デラ・アスンシオン教会」と呼ばれています。重厚な石造りの赤レンガ建築で、かつては要塞としても機能していたことが伺えます。
ミアガオ教会
ビサヤ諸島最西端のパナイ島に位置する教会。正式名称は「サント・トマス・デ・ビリャヌエバ教会」ですが、イロイロ州ミアガオ地区にあるため「ミアガオ教会」と呼ばれています。1797年に完成しましたが1898年の米西戦争での被害や、1948年の大地震の被害を受けたなかでの修復作業を経て、1962年に再び完成しました。黄土色の石造りの外観が特徴的で、日干しレンガ、石灰岩、サンゴ、卵などが材料に使われています。ファサード中央にはヤシの木が描かれ、聖クリストファーが農夫のようにズボンをまくりあげて、キリストの子を背負う姿が描かれています。ヨーロッパの装飾スタイルと、イロイロ地方の民俗表現が融合された貴重な建築だといえます。