フィリピン最初の世界遺産
バロック様式教会群を訪ねる

16世紀の大航海時代から300年以上、スペインの統治下にあったフィリピン。街なかにはバロック様式のカトリック教会を中心に、スペイン統治時代の面影を残す建築や風景が数多く残ります。なかでも首都マニラがあるルソン島、ビサヤ諸島最西端のパナイ島に立つ4つのバロック建築の教会は、1993年「フィリピンのバロック様式教会群」としてフィリピン初の世界遺産に登録されています。

2024.07.11

フィリピンの地理的条件を活かした建築様式

フィリピンでは16世紀にスペイン統治が始まった結果、キリスト教が広まっていきました。スペインは宣教師を派遣し、フィリピン国内でカトリックを布教するため教会を次々と建築。現在はASEAN諸国で唯一のキリスト教国で、国民全体の約93%がキリスト教徒、そのうち約83%がカトリック派です。

フィリピンに建設された教会はヨーロッパのバロック様式の特徴である、豪華絢爛さ、立体性、光と影を描き分けるドラマチックな演出とは少し異なり、地震や台風など災害が多いフィリピン独自の地理的条件を考慮した低い天井、石灰岩やサンゴなどを使用した頑丈な造りが特徴。この建築様式はEarthquake Baroque(地震バロック)と呼ばれます。また、戦争や海賊の襲来に備えて、監視塔としての役割を持ちました。装飾もヤシの木など、フィリピンならではの南国らしいレリーフなどがあしらわれていることから、ヨーロッパ文化と融合しつつも独自の建築スタイルを確立したことが世界文化遺産認定への評価につながったとされています。

「フィリピン」という国名は、ハプスブルク家全盛期の王、フェリペ2世が由来。首都マニラの街なかにはフェリペ2世の像が立つ。
「フィリピン」という国名は、ハプスブルク家全盛期の王、フェリペ2世が由来。首都マニラの街なかにはフェリペ2世の像が立つ。
1999年に世界文化遺産に登録された「ビガン歴史地区」。交易の拠点として栄えた。16世紀スペイン統治時代を彷彿とさせる、コロニアル様式の建築や石畳の街並みが残る。
1999年に世界文化遺産に登録された「ビガン歴史地区」。交易の拠点として栄えた。16世紀スペイン統治時代を彷彿とさせる、コロニアル様式の建築や石畳の街並みが残る。

サン・アグスチン教会

1599~1606年に建造。マニラの旧城郭都市、イントラムロスにあります。石造りの教会としてはフィリピン最古といわれていて、祭壇の左にはスペインの初代フィリピン総督レガスピが眠る礼拝堂があります。高い天井にはパリから取り寄せたシャンデリアが輝き、立体感のある豪華絢爛な内装が魅力です。第二次世界大戦ではアメリカ軍による砲撃を受けてイントラムロスの街全体が大きな被害を受けますが、サン・アグスチン教会は奇跡的に大きな被害を免れたことで知られています。

1880年に発生したマニラの大地震の影響で、左右対称だった東の鐘楼に亀裂が入り撤去された。現在は西側の鐘楼のみ残る。
1880年に発生したマニラの大地震の影響で、左右対称だった東の鐘楼に亀裂が入り撤去された。現在は西側の鐘楼のみ残る。
教会正面右にあるサン・アグスチン博物館も必見。元は第二次世界大戦時に崩壊した修道院。光が差し込む回廊には、絵画や彫刻などキリスト教美術が並ぶ。
教会正面右にあるサン・アグスチン博物館も必見。元は第二次世界大戦時に崩壊した修道院。光が差し込む回廊には、絵画や彫刻などキリスト教美術が並ぶ。
サン・アグスチン教会 San Agustin Church
General Luna Street, Intramuros, Manila

パオアイ教会

正式名称は「サン・アグスチン教会」。マニラの「サン・アグスチン教会」と同じ名前ですが、パオアイの街の中心部にあることから一般的に「パオアイ教会」と呼ばれています。約20年の建設期間を経て、1710年に完成。教会の建築様式は、バロック様式に加えて、様々な国の建築様式の影響を受けているといわれています。

例えば、角状になった屋根の部分はボロブドゥール寺院のストゥーパを彷彿とさせるジャワ様式、壁面の飾りは中国など東洋の影響、教会の側面に備わるゴシック様式ならではの巨大なバットレス(控え壁)は、地震が多いフィリピンの地理的条件を考慮した頑丈な構造になっています。

装飾華美が特徴のバロック様式だが、教会内部は比較的シンプルな造り。
装飾華美が特徴のバロック様式だが、教会内部は比較的シンプルな造り。
パオアイ教会 Paoay Church
Marcos Ave, Paoay, Ilocos Norte

サンタ・マリア教会

ルソン島北西部、サンタ・マリアの丘上に立つ教会。教会へは80段以上の階段が続き、サンタ・マリアの街を見下す見晴らしの良いスポットです。1769年に建設され、1810年に教会の横に鐘楼が建てられました。聖母マリアが天国に召される「聖母被昇天」を意味する「アスンシオン」というスペイン語にちなんで、別名「ヌエストラ・セニョーラ・デラ・アスンシオン教会」と呼ばれています。重厚な石造りの赤レンガ建築で、かつては要塞としても機能していたことが伺えます。

教会内部は黒いシャンデリアが吊るされ、聖母マリアを祀る正面の祭壇は青と金、教会内部は白で統一されている。
教会内部は黒いシャンデリアが吊るされ、聖母マリアを祀る正面の祭壇は青と金、教会内部は白で統一されている。
壁には「聖母被昇天」をモチーフに、宙に浮かぶ聖母マリアが描かれている。
壁には「聖母被昇天」をモチーフに、宙に浮かぶ聖母マリアが描かれている。
サンタ・マリア教会 Santa Maria Church
4 Santa Maria - Burgos Rd, Santa Maria, Ilocos Sur

ミアガオ教会

ビサヤ諸島最西端のパナイ島に位置する教会。正式名称は「サント・トマス・デ・ビリャヌエバ教会」ですが、イロイロ州ミアガオ地区にあるため「ミアガオ教会」と呼ばれています。1797年に完成しましたが1898年の米西戦争での被害や、1948年の大地震の被害を受けたなかでの修復作業を経て、1962年に再び完成しました。黄土色の石造りの外観が特徴的で、日干しレンガ、石灰岩、サンゴ、卵などが材料に使われています。ファサード中央にはヤシの木が描かれ、聖クリストファーが農夫のようにズボンをまくりあげて、キリストの子を背負う姿が描かれています。ヨーロッパの装飾スタイルと、イロイロ地方の民俗表現が融合された貴重な建築だといえます。

ミアガオ教会 Miag Ao Church
Zulueta Ave, Miagao, 5023 Iloilo
フィリピン
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