バンコクで 花文化に触れるデイトリップ
バンコクでは、街角のあちらこちらに、花のあるシーンが繰り広げられています。祈りの場で、嬉しい時に、何気ないタイミングで、花はタイの人々の暮らしを彩っています。市内や郊外のあちらこちらを巡りながら、タイ独特の花文化に触れるデイトリップを楽しんでみましょう。
花が身近にあるタイならではのアレンジメント
日本の生け花やアレンジメントでは、花や植物をあるがままの姿で用いて、花器に活けたりブーケに しますが、タイの花アレンジメントは、ちょっと異なります。美しい花びらや花蕾をあくまでも素材として考え、バラバラにして糸で縫ったり、ピンで留めたり、と、まるで生きたクラフトであるかのように仕上げるのが特徴です。
自然が近くにあり、生活の中に生花がふんだんにあるタイでは、それが伝統的な花文化なのです。
仏教の儀式や結婚式、お祝いなどの人生の大切な節目を、タイの人々は凝った仕立ての色鮮やかな花アレンジメントで彩ります。その1日だけのために最高の美しさを追求し、色や香りで「現在」を祝福するのがタイの美意識なのかもしれません。
祈りと願いを込めて。花数珠プアンマーライ
タクシーの中に飾ってあったり、仏像や祠にお供えしたり、目上の方に贈り物をする際に一緒に差し上げたり。タイの人々の暮らしに欠かははせないのが、プアンマーライと呼ばれる数珠のような花輪です。タイでローカルなホテルに泊まると、テーブルの上や置物に、さらりとプアンマーライかけられていることもあります。また、毎年8月12日の母の日には、母親にプランマーライを送るのが習わしです。
一般的なプランマーライは、ジャスミンの小さな花蕾をぎゅっと糸でつなぎ合わせて作られます。赤やピンクのバラ、黄色のマリーゴールドなどが房の代わりに用いられることが多く、デザインや大きさはさまざまです。
プアンマーライの美を際立たせるのが、タイ語で「ドック・ラック」、愛の花という意味の小花。その形状は王冠にも似ていて、なんとも優雅。王宮の儀式や、一般人の結婚式にも使われる縁起のよい花です。
タイ最大の花市場をぶらりと探検する
花好きなら、バンコクで一度は訪れて見たいのが、チャオプラヤー川近くに位置するパーククローン市場です。パーククローンとは、水路の入り口、といった意味。その歴史は、18世紀、タイの現王朝であるチャクリー王朝の初代ラーマ一世が、チャオプラヤー川に通じる水路を設けた頃に遡ります。その後、魚や肉などの市場は別の場所に移り、パーククローン市場は、農産物や生花が中心の市場となりました。タイ最大の花市場で、国内各地から生花や草木が集まってくる巨大な複合マーケットです。
パーククローン市場の中でも、お供え用の花々を扱う店が多く集まるのが、ヨートピマーン生花市場。ここでは、さまざまなプアンマーライを見ることができます。一つ10バーツほどの小さくてシンプルなものから、何百バーツもする芸術品のようなものまで。デザインやサイズは、店や作る人によってそれぞれに異なるので、じっくりと眺めるのも楽しみです。
旅行客なら、道端の屋台で小さなプアンマーライを買って、ブレスレットのように手首につけるのも一興。芳しい香りとフレッシュさをその一日だけ楽しむのも、素敵です。
マリーゴールドの花の渦にエネルギーをもらう
さまざまな想いを花に託して、人々が祈っている姿が印象的なのが、エラワン廟(プラ・プロム)。グランドハイアット・エラワン・ホテルの角にある、ヒンドゥー教の祠です。金運アップ、家内安全、商売繁盛など、さまざまな願いごとを叶えてくれるパワースポットとして、一年中、国内外からの参拝者で賑わっています。
お祈りをする際には、線香やマリーゴールドの花を、四面体のブラフマー神のそれぞれに時計回りに供えながら、願いをかけてゆきます。誰でもお祈りできるので、ぜひ線香と花を買って願いをかけてみましょう。山吹色のマリーゴールドの花は、繁栄を意味するとか。花が次々とふんだんに積み重ねられてゆく、その鮮やかな色に、旅への エネルギーをもらえそうです。
花の美をより深く知るなら「花の文化博物館」へ
タイの花に興味を持ったなら、ぜひ訪れてみたいのが「花の文化博物館」。タイ人フローラルアーティストのサクン・インタクン氏が運営する私設博物館です。インタクン氏は、世界的なイベントなどで活躍する他、タイ王国シリキット王太后のフラワーコーディネイト担当として、数々の国家行事や儀式にも参加したキャリアの持ち主。
館内には、タイの儀式に用いられる花飾りのデザインや意味、タイの花文化の特徴や昔の写真、アジア各国の伝統的な花文化、インタクン氏の活動ぶりなど、花の文化について多方面から展示がされていて興味が尽きません。
博物館には、カフェも併設されていて、タイをはじめとするアジアのお菓子やお茶をいただきながら、ゆっくりと時間を過ごせます。美しい写真で綴られたインタクン氏の著作本も販売されています。
睡蓮を間近に楽しめるレッドロータス・フローティング・マーケット
バンコクに隣接したナコーンパトム県のバーンレーンにあり、バンコク中心部からは車で約1時間半。2017年のオープン以来、人気となっているのが「レッドロータス・フローテイング・マーケット」です。
広大な睡蓮の池には、2種類の睡蓮が1年じゅう咲き誇っています。船頭さんが漕いでくれるボートに乗って、睡蓮の花をごく近い視点からゆったりと愛でることができます。
午後に咲く種類の睡蓮もありますが、多くの花がきれいに咲く午前中の早めに行くのがおすすめ。また、ドローンで自分たちが乗った船を記念に撮影してくれるサービス(有料)もあります。
花をテーマにして巡るバンコクとその郊外へのデイトリップ。南国の花の清らかさに癒され、タイの人々の想いに触れる豊かな時間になります。
文・写真 : 坪田三千代 (Michiyo Tsubota)