建築様式からみるマレーシアの歴史
異国情緒の風情を漂わせるショップハウスの町並み。アジアらしい路上にせり出した店の風景は、ショップハウスの建築様式に関係があるのです。1957年の独立後に建てられたクアラルンプールの現代建築にも注目。
マレーシアの街歩きがもっと楽しくなる歴史背景を紹介します。
都市建築を代表するショップハウス
ショップハウスとは、店舗と住まいが結合した建物のこと。1階は店舗や倉庫で、上の階が住まい。中国南部から東南アジアのかなり広い地域にみられる町の建築物です。
通りに面した間口が狭く、奥行きが驚くほど長いのが構造的特徴。19世紀のイギリス植民地時代、建物の税金が間口の幅によって決められていたためで、幅の狭い入り口とは対照的に、中は奥に長く続く空間になっています。
建物の中央にエアウェル(空気の井戸)とよばれる中庭があるのもショップハウスならでは。明るい陽が差し込む家のなかのオアシスのような場所で、南国の暑さをやわらげる風の流れをうみだす工夫。窓はよろい戸式になっていて、風の通りをさえぎらずに、外から中が見えない仕組みになっています。
そしてもうひとつ、マレーシアのショップハウス建築で独特なのが、建物の前に設置された歩廊。でっぱった2階の下にあるため、屋根付きの通りになっています。
この歩廊も、イギリス植民地時代に強い陽射しと雨をしのぐ目的で法規上定められたもの。現在も商業目的の建物には必ず整備することが義務づけられています。およそ5フィート(約1.5メートル)の幅があるため、「ファイブ・フット・ウェイ」とよばれます。
たとえば、マレーシアでおなじみの路上で営業する屋台。よくみると、飲食店前のファイブ・フット・ウェイに、同店のテーブルが置かれていることが多々。道行く人はテーブルとテーブルの間をぬうように歩き、通り過ぎる人もいれば、ふと思い立ったように席に座って料理を注文する人も。つまりこの場所は、店の外でありながら店の中でもあるという、非常におもしろい空間になっています。
マレーシアという国を表現した現代建築
さて、マレーシアがマラヤ連盟として独立したのが1957年。その後、1963年にマレーシア連邦が成立します。1960~70年代の首都クアラルンプールは建築ラッシュで、イギリス植民地時代の建物とは異なる、マレーシアらしさを表現した建造物が求められました。その時代にうまれた注目の建築物を紹介します。
青い屋根が目を惹く「国立モスク」
モスクでよく見る半円型のドームではなく、鋭敏な三角型を組み合わせた傘のようなデザインの屋根。青と白というスタイリッシュな配色で、中東のイスラム国家とは異なるマレーシアらしい新しいイスラムの世界を表現。ムルデカ(独立)建築の最高峰といわれています。
※1日5回の礼拝の時間以外は、観光客の見学が可能。肌の露出が多い服装はNGで、女性の場合は入り口でローブとスカーフを借りて、それを身に着けて中に入る。
優美さを漂わせる「ダヤブミ・コンプレックス」
クアラルンプールでひときわ目立つ優美なデザイン。真上から見ると、12角の星形で、壁には透かし彫りのモザイク模様が配されています。このイスラム風の飾り格子は、美しいデザイン性と日中の強い陽射しをさえぎる実用的な効果の両方を兼ね備えています。
*商業施設のため周囲から見学するのみ
イスラム教の五行を表現した「タブン・ハッジ・タワー」
ビル中央がくびれたようなカーブを描いた美しい姿。大きな5本の柱で支えられていて、イスラム教徒の5つの行である、信迎告白、礼拝、断食、喜捨、巡礼を表現しています。エントランス頭上がアーチ型なのも魅力的で、ロビーは開放的な空間になっています。
*ファンド施設のため周囲から見学するのみ
伝統的な集会施設がモチーフになった「国立博物館」
“切妻”とよばれる三角屋根が中央にあり、そこから両側に平行して屋根が続くデザイン。マレー半島北部ケダ州にある集会施設「バライ・バザール」にインスピレーションを得て設計されたもので、人が集う場所であることから、マレーシアの民主主義を表現しています。
モザイク模様が美しい「ペトロナス・ツインタワー」
双子のタワーとしては世界1位の高さを誇り、デザイン性の美しさもトップクラス。イスラムらしいモザイク模様が細部にいたるまで繰り返しデザインされ、終わりなき世界観を表現。建築素材にガラスとステンレス・スチールを多用し、キラキラと輝いています。
参考図書:
『シンガポール&マレーシア 旅する21世紀ブック』同朋舎出版
『多民族社会マレーシア』宇高雄志著・南船北馬舎
文・写真(一部):古川 音 (Oto Furukawa)
記事製作協力:宇高 雄志(兵庫県立大学環境人間学部教授)